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第3回

ヨシタケシンスケ ロングインタビュー(第3回)

大人気の絵本作家・ヨシタケシンスケさんの最新刊が好評発売中! ということで、全3回にわたり、ロングインタビューをお届けいたします! 創作秘話から、海外版製作についてまで、お話をたくさん伺いました。

(ライティング:松井ゆかり 写真:帆刈一哉)

◆いつ読んでも新しいと思える絵本を作りたい

こういう仕事をしているといろいろなご意見や感想をいただきますが、「自分が子どもの頃に読みたかった」と言っていただけるのはすごくうれしいですね。それはやっぱり何より僕自身が、「僕が子どもの頃読みたかったのはこういう本なんだ」「子どもの頃知りたかったのはこういうことなんだ」ということを考えて本にしているので。
一方で、『あんなにあんなに』はまさに大人の方にぜひ読んでもらいたい絵本でもあります。「大人が読んでもおもしろいね」と言っていただけるのも、またうれしい。子どもの頃に親しんだ本を大人になって読み返したときに「ああ、こういう意味もあったんだ」「子どものときには気がつけなかった」と感じられるような本がやっぱりいいなと自分自身も思いますから。
自分で絵本を作るときも、人生で読む時期によって毎回受け取り方が違うような本になってくれるといいなあと思っています。本自体は変わってないけれど、それを読む方は成長していって、その都度新しい自分にとっての新しい存在になっていくというのが、いい本の条件だろうなと思います。本というものはそれができる、すごく長いスパンで同じ人間とつきあっていけるという意味で、とてもおもしろい表現媒体だと思うんです。

『あんなにあんなに』も、30年後に読んでも心に響くものであってほしいですね。昔は子どもとして読んだけれど、たとえば大人になって自分に子どもができたときに、「小さい頃に読んでいたなあ」「お母さん、これを読むたびになぜかしんみりしてたんだよねー」って思い出して手に取ってもらえるようなものになってくれたらうれしい。子どもの頃にはわからなかったけど、こういうことだったんだって30年かけて気づいてもらえたら、その30年間ちゃんと時限装置が働き続けるようなものになってくれていたら、やっぱりうれしいですよね。
僕自身も小さい頃に好きだったものを一生好きでい続けるだろうし、何かに夢中になった思い出はすごく長くその人を支え続けると思うので。自分の作った絵本も、誰かの出会いのタイミングで選ばれるかもしれないっていうのは、すごく幸運で恵まれたことだなあって改めて思いますね。


イラストを描くヨシタケさん。原画はとても小さくてものすごく可愛い。

◆自分も息子たちも絵本も変化していく

子どもの成長とともに、自分の興味の対象もこまめに変わってきていますね。作家さんによっては、ファーストブックを作り続ける方もいらっしゃるけれど、僕はふだん生活していて感じることをその都度拾っていきたいなあという思いがあります。たとえば子どもがもっと大きくなってひとり暮らしをしたりするようになったときに、親は何を考えるのかなあとか。あるいはそれこそ僕がもっと歳をとっていろいろなことができなくなったりしたときに、どういう風に世の中が見えるのかなあとかそういうことを考えます。子どもが大きくなるのと同じくらいこちらも歳をとっていく、先が短くなっていくということを、僕自身がどう捉えていくのかな、とか。
そういった心の動きを、どういう形でなら表現できるんだろうと考えると、ネタは尽きないなと思っています。この後たとえば何か大きな事件があったとして、それに対して僕が何か思うとする。好むと好まざるとにかかわらず、その都度、起きたことをどう拾うかということが重要になってくるんじゃないかと思っています。その拾った何かに対して感想を抱くのに、1か月で意見がまとまるのか、10年かかるのか、20年かかってもわからないのか、そういうこともそのときになってみないとわからないですけどね。

◆何も起きない絵本もあっていい

『もうぬげない』(ブロンズ新社)という、服が脱げないことを描いた絵本が、ボローニャ・ラガッツィ賞特別賞を受賞して海外で評価していただいたとき、審査員の方が「子どもは頭が大きいので、服をぬぐときに引っかかる。これは世界中の子どもが引っかかっている。日本だけでなくどこの国でも引っかかる。だけど、それを絵本にしようとしたのは、彼が初めてだ」ということを言ってくださって、それがすごくうれしかったんです。当たり前すぎて見過ごすようなところにもネタはたくさん転がっていて、そういうところをおもしろがれれば、どんなことも理論的におもしろがれるはずなんです。だから、努力もしないし反省もしないし同じ失敗ばかり繰り返すふつうの子どもが主人公のおもしろいお話があったとすれば、同じように努力もしないし反省もしないし同じ失敗ばかり繰り返すふつうの子たちが主人公になれるということのひとつの証明なわけですよね。特殊な才能を持っていなくても人一倍がんばらなくても、こんなにおもしろいじゃないか、楽しいじゃないかということが言えればいいんじゃないかなあという気がしてます。


ご自宅の柱にはお子さんたちの身長の記録が。
ヨシタケさんの生家なので、ご自身の記録もあるのだそう。

『あんなにあんなに』も、特別でない、ふつうの子育てをしているお母さんが主人公なんですね。珍しいことは何ひとつ出てこない。そんな、何も目新しいことがない本が作れるということが、自分でやっていてうれしいんです。
何も言っていないという、そのこともひとつの表現として言っていい。「何にもないよねー」ということすら、ひとつの表現、テーマになり得るっていうのは、僕自身も10年前には知らなかった事実なんです。こういうことも言っていいんだということがわかってくるのは、こういうものを作る仕事のいちばんのごほうびだなという思いはすごくありますね。
『あんなにあんなに』では、長い時間の流れや、少し未来のことを描いたりしたという点で、ずいぶん自分の中では冒険をしたというか、新しいことにチャレンジしたつもりではあるんです。作っていてすごく楽しかったですね。


ヨシタケさんのお仕事場にて


◆読者のみなさんへ 

今回、海外でも同時に出版されるということで、日本国内だけでなく海外の読者の方々にも読んでいただけることをうれしく思っています。『あんなにあんなに』という絵本には、国や文化の違いに関係なく多くの人が思うであろうことを描きました。どこの国の作家が描いた本なのかとか、いつの時代に描かれたものなのかとかを、読者のみなさんが意識せずに最後まで読んでもらえたらうれしいなという思いです。
日本だから描けたものでもないし、この時代だから描けたものでもなくて、たぶん『あんなにあんなに』はどこの場所でもいつの時代でも同じように読んでもらえるのではないかと思っています。海外のいろんな国でも、僕が行ったことのないような遠い場所でも、「あーあるある」と思ってもらえたら、それは本という媒体がすごいんだっていうことですよね。僕も同じように100年前のどこかの国の人が書いた本を読んですごーいと思ったりするわけだし、遠い時代や場所の誰かが心を込めて作ったものに思いを馳せることができるっていうのが、本の何より素晴らしいところじゃないかなと思っています。読んでいただいて「あ、本おもしれえな」と思ってもらえたらいいなと思います。『あんなにあんなに』という絵本そのものを楽しんでほしいのはもちろんですけど、本というのは時代や場所を超えることができるものなんだっていうことに感動してもらえたら、いちばんうれしいかもしれないですね。


Profile

ヨシタケシンスケ

1973年神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。日常のさりげないひとコマを独特の角度で切り取ったスケッチ集や、児童書の挿絵、装画、イラストエッセイなど多岐にわたり作品を発表。絵本デビュー作『りんごかもしれない』で第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞、第8回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を、『もうぬげない』でボローニャ・ラガッツィ賞特別賞を受賞。『つまんないつまんない』で2019年ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞に選出。近著に『あるかしら書店』『もしものせかい』などがある。2児の父。

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